現在公開中の映画「ミッドナイト・イーグル」や今年数々の映画賞にノミネートされた「武士の一分」が、「ウルトラマン」「男はつらいよ」などの数々の名作を生み続けてきた神楽坂の旅館「和可菜」から生まれたことがわかった。
客室数わずか5室の同旅館は、女将・和田敏子さんが切り盛りする1954年創業の老舗和風旅館。脚本家や映画監督、作家や演出家などが執筆や打ち合わせ、構想を練る場として映画やテレビ業界関係者を中心に「ホン書き旅館」として愛されてきた。同旅館から世に出た作品が数多くヒットすることから「出世旅館」とも呼ばれている。
同旅館にゆかりのあるおもな人物は、内田吐夢さん、今井正さん、浦山桐郎さん、深作欣二さん、早坂暁さん、野坂昭如さん、市川森一さん、中上健次さん、竹山洋さん、内舘牧子さん、伊集院静さん、といった巨匠と呼ばれる映画監督や脚本家、作家などそうそうたる顔ぶれ。現在も映画監督の山田洋次さんが仕事場の拠点とし、平松恵美子さんと山本一郎さんと昨年上映された映画、「武士の一分」も仕上げたという。同じく昨年上映された映画「日本沈没」の加藤正人さん、現在公開中の映画「ミッドナイト・イーグル」を演出した成島出さんなども同旅館を仕事場所とするなど、現在過去を問わず「出世ジンクス」は途切れることなく続き、ヒット作品も枚挙にいとまが無い。
来年86歳を迎える和田さんは「出世ジンクス」に関して、「よく当たるとは言われるけれど、それは昔のこと。今の若い作家さんたちはほとんど来ないから」と控えめに話す。後継者は無く、和田さんの代で営業を終了する予定だという。
映画全盛時代には同じタイプの旅館が東京や京都を中心に存在したが、映像文化の変化や旅館からホテルへのシフトなどもあり、当時の面影を残す「ホン書き旅館」として、同旅館は唯一と言っていい存在となっている。
同旅館は2002年、和田さんのおいにあたる黒川鍾信さんによる著書「神楽坂ホン書き旅館」の発売、今年1月より放映され神楽坂が舞台となったドラマ「拝啓、父上様」(フジテレビ系列)で実名で登場したことにより、その存在が広く知られることになった。同旅館前の兵庫横丁は、その景観で「神楽坂らしさ」を体現していることもあり、多くの観光客などが写真を撮っている姿が見受けられる。
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