全国発売日となった5月29日に68万部という異例の出足を見せている村上春樹氏の新刊「1Q84」BOOK1、BOOK2(全2巻)。その裏側には、村上春樹ファンを中心とする読者の熱い声が存在する。
現役作家として国内はもちろんのこと、海外からも注目される村上氏は、2006年にフランツ・カフカ賞、2008年にはエルサレム賞を受賞。そんな同氏の7年ぶりとなる長編小説で、ファンにはまさに待望の作品となる。新潮社(新宿区矢来町)は今回、2002年「海辺のカフカ」刊行時に「事前に内容を知らせないで欲しかった」という多数の声があったことを考慮し、事前に内容についての情報を開示していない。
「村上さんと相談し発売前の広告では、『1Q84』というタイトル、全2巻であること、発売日(5月29日)、定価(1,890円)しか情報を伝えなかった」と広報宣伝部の町井次長。「通常は出版元としてバウンド・プルーフの配布や、書評家などにゲラを読んでもらうなど、販売促進活動を行うが、今回は実験的に発売前に内容について一切の告知をしなかった。事前に内容を知っていたのは、担当編集者や弊社社長など数人程度」とも。
国内外から注目を集める「村上作品」で、久しぶりとなる最新長編書き下ろし。内容に関する情報をシャットアウトし、ファンや読者の「渇望感」を醸成する戦略が功を奏したかたちとなった。
同書の初版部数は1巻が20万部、2巻が18万部であったが、その後の書店注文や予約の状況から発売前に増刷(5万部・4刷)を決め、それぞれ35万部と33万部に修正。全国発売日にトータル68万部という文芸作品としては異例の部数に達している。